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トリノ
トレース

vol 001

2023.02.01

視覚を超えたアート共同鑑賞ワークショップ 「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2022」
11月26日 開催レポート

視覚を超えたアート共同鑑賞ワークショップ 「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2022」<br>11月26日 開催レポート

2022年11月26日(土曜日)、「フクシ×アートWEEKs2022」とも連携したプログラムとして、「汽水域アートシェアリング2022 『ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2022』」を開催しました。

執筆|
鳥取大学デザインプロジェクト2022年度こやま組

編集|
石田陽介

編集補助・撮影|
蔵多優美

1開催レポート

2022年11月26日12時より二時間に渡って、ウェルビーイングを共創するプレ美術館セラピープログラム「汽水域アートシェアリング2022」として、「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館 2022」が開催された。
本ワークショップには視覚障がい者5名、車いすでの参加者1名、幼児1名を含む参加者18名、視察に来られた方8名の計26名が参加し、対話を通してアート作品を共に楽しんだ。
イベントの会場となった鳥取県立博物館は、赤を基調とした建物でコンクリートが多く、丸いモチーフが所々にありモダンな雰囲気だった。

待機場所であった会議室では、最初は途切れがちだった参加者の会話も時間がたつにつれ弾むようになり、自己紹介が終わるころには各グループから笑い声まで聞こえるようになった。
参加者はABCDの4つのグループに分かれ、各グループは15分を目安に、一枚の絵画を鑑賞した。
1時間で約4枚の絵画を鑑賞した。イベントのスタッフには鳥取大学の学生が関わった。

主催のギャラリーコンパスタッフ

会議室から美術作品が展示されているブースに移動し、デモンストレーションを実施。
ファシリテーターである視覚障がい者の濱田庄司さん、晴眼者の松尾さちさんが実際に一枚の掛け軸の前に立ち、実演した。
描かれている動物の表情や毛並みについての説明をしたり、実際に濱田さんの体を使って動物の体の向きを表現する場面も見られた。

A班では、まず「波と山が順番にある」「大きな笠を頭から被っている」「身体が傾いている」「沖縄の木の楽器?」というように何が描かれているかについての説明がなされ、続いて「踊っているようにも見える」「人物だけ半分白く丸くなっている」「衣装は昔の沖縄の人たちの琉球衣装かな」「女性かわからないくらい厚着をしている」「帽子は花を逆さにしたようなデザイン」というように、衣装についての話や「口は表現されていない」「目はつり目?」など細かな表情にまで波及し、視覚障がい者、晴眼者共に絵画に対する理解を深めていた。
さらにタイトルにも注目し「『巡礼』だから風景だと思っていたけど歩いていた時の形跡や記録を表現?」「頭の中の記録を後ろに描いてる気もする」と対話が進んだ。

B班は、題名や1949年という年代に注目して対話が進んだ。
「1949年(戦後)だから帰ってきた日常みたいな感じ」「下に置いてある靴は肩車されている子どもの靴?」「傘があるから直前まで雨が降っていたのかも」と写真に写っているものから想像を膨らませて説明された。
「女性は笑ってない、ただの家族写真ではない?」「花を持っている女の子だけちょっと距離感がある」「自然に撮ってない、ポーズを取ってる」というように写真の不自然さにも言及した。
また、サインが書かれている場所の話やファーストネームが始めに書かれていることから海外を意識しているのか、と写真そのものだけでなく作者自身について対話する場面も見られた。

C班は「木札みたいなの持ってる?」「海が荒れてるのかもしれない」とそれぞれ自分が想像したものについて説明がなされていった。
大きさを言う人や色合いを言う人、「アイヌの人が『(鷲を)今から撃ち抜いてやるぞ!』という気持ちでいる」と抽象的な絵でも想像しながら人物の心情や表情について言及する人もいた。

D班は、作品の様子や質感、印象について説明していた。
「暗い印象の作品だね」という人や「ポジティブな視点で考えるとこんなシチュエーションが想像できるかも」というように鑑賞する人によって異なる感想、印象を受けて、参加者はお互い興味深そうに話を聞き、なぜそのように感じたのかと意見交換を重ねた。
またこれまでに見てきた作品と比較しながら作品を鑑賞していた。

共同鑑賞を終えた後は、別室で先ほどの鑑賞体験を振り返り、感想を述べあい言語化する作業体験を行なった。
晴眼者の方の感想として、「同じイメージを持てるように説明するのが難しい」「自分が気が付かなかったものの見方を発見できた」という意見が多かった。
視覚障がい者の方も「説明する人によって違った視点があっておもしろかった」「音声ガイドとは違って人間っぽくてよかった」と明るい意見が多く、ほとんどの参加者が今回のギャラリーコンパを楽しめていたようだった。

2レポーター編集後記

私は今まで障がいを持っている人々とあまり関わったことがなく、今回のような障がい者と健常者が共に集まるイベントに初めて参加した。初日のギャラリーコンパでは控室に参加者が座っているとき、最初は少し緊張した雰囲気だったのが、美術館での鑑賞が終わって戻ってきたときには互いにとても打ち解けて和気あいあいとした雰囲気だったのが印象深かった。感想をひとりずつコメントしてもらったときも、「新鮮だった」「楽しかった」「またこのような機会があったらぜひ参加したい」という声が多くとても嬉しかった。今回は記事を執筆する役割を担ったため参加者の人々と直接関わる機会はほとんどなかったが、次にこのような機会があったら積極的に話してみたいと感じた。美術館を人と人が繋がる交流の場にするという取り組みは、美術にとっかかりのない人でも気軽に楽しめる機会だと感じる。アートを通じて人々が交流を持つという取り組みをこれからも見守りたい。(炭谷)

今回のギャラリーコンパでは、晴眼者の参加者と視覚障がい者の参加者がそれぞれの個性を生かしつつ、互いにコミュニケーションを通じて作品について想像したり、理解しようとしたりする姿勢が印象に残った。こういった互いに理解しようと歩み寄る態度が障壁を超え、芸術を介した交流を生み、参加者、そして地域のウェルビーイングにつながっていくと感じた。また、対話型鑑賞を通じて作品の見方、感じ方の違いを楽しむといった、ただ作品を見るということだけが芸術の楽しみ方ではないと感じることのできる機会だった。そして、「楽しかった」、「また機会があれば参加したい」といった参加者の声が多く、視覚障がい者の参加者の中には以前は自分の知らない作品を見てもどのように芸術を楽しんでよいかわからないことから美術展へ行くことへためらいを感じていたが、対話型鑑賞によって細部まで作品をイメージすることができたことへの喜びを味わうことができ、美術展へ足を運んでみたくなったといった方もいて今回デザインプロジェクトでこの企画に参加できて本当によかったと感じた。(中澤)

「歩くときは腕をつかんでもらう」「階段を使用するときは残り何段かを伝える」というようにこういうときはこのようにすればよいという対処法は知識として知っていたが、実際に運営者として今回のギャラリーコンパに参加して、見て体験しなければわからないことはたくさんあると学んだ。特に視覚障がい者の方を誘導する晴眼者の方が私たちと変わらないスピードで歩いているのを見てとても驚いた。視覚障がい者の方が晴眼者を信頼して歩いていることもそうだが、晴眼者の方が良い意味で視覚障がいのことを重く捉えていないのが良いなと感じた。こうしたほうが良いだろうと自分で勝手に判断したことが障がいを持つ方にとって必ずしも良いことであるとは限らないことを学んだ。(長谷川)

3主催情報

ファシリテーター:石田陽介・濱田庄司・松尾さち
運営:鳥取大学デザインプロジェクト

主催:鳥取大学 地域価値創造研究教育機構
共催:鳥取県教育委員会美術館整備局
   鳥取県立美術館パートナーズ

参加者集合写真

4メディア掲載情報・リンク

石田陽介、松尾さち、濱田庄司

ギャラリーコンパスタッフ

石田陽介・松尾さち・濱田庄司がファシリテーションする「ギャラリーコンパ」は、視覚障がい者と晴眼者が、目の見える見えないといった互いの個性を活かし合い、共に語らいながらアート鑑賞を行うワークショップである。市民活動として2005年に始動し、主に北部九州の美術館やギャラリーで年3、4回のペースで開催している。

こやま組

鳥取大学デザインプロジェクト2022年度受講生

記事執筆担当こやま組メンバー:炭谷 華月、長谷川 真夕、中澤 柊生