芸術療法(アートセラピー)とは、古来より存在する芸術体験のもたらす癒しの作用を、近代医学のテクノロジーとしてリハビリテーション治療へと応用した医療技法である。
20世紀、欧米における美術教育との相互浸透の元で発展し、世界各国に普及した。
ピーター・バゾルゲッティ英国芸術評議会チェアマンによるガーデアン紙への寄稿文『国民の健康を高めるために芸術を使用して』(2014年掲載)には、「社会的処方(Social Prescribing)」という言葉が示され、アートが内包する社会包摂機能を保健医療機関と協働しながら市民のQOLを高める手法として活用する案が提起された。これらに耳を傾けると、グローバル社会が瞬く間に浸透をみせる中において、世界的潮流から見ても地域社会へと向けられた芸術療法(Social Art therapy)が待望されていることが実感されていく。その鍵となるのが、自身をケアする芸術養生(Self Art therapy)という視座であり、そのための身振りである「アートシェアリング」なのだ。
精神科医療にて用いられる「シェアリング」という専門用語は、芸術療法において患者が創作表現を行った後にその感想を述べあうなど、言葉でのコミュニケーションを交えながら作品に表した思いをセラピストへと伝え、共にそのイメージを分かち合う過程を指す呼称である。そうした芸術療法における作品鑑賞の一過程を示す「シェアリング」という呼称に対し、本サイトでは広義の意味において芸術体験全体の共有過程を「アートシェアリング」と規定し、その可能性を様々な形で提示する。