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トリノ
トレース

vol 002

2023.02.01

『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』先行上映会・トークショー
11月27日 開催レポート

『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』先行上映会・トークショー<br>11月27日 開催レポート

2022年11月27日(日曜日)、「フクシ×アートWEEKs2022」とも連携したプログラムとして、「汽水域アートシェアリング2022 『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』先行上映会・トークショー」を鳥取県立博物館において開催しました。

執筆|
鳥取大学デザインプロジェクト2022年度をわぬ組

編集|
石田陽介

編集補助|
蔵多優美

撮影|
藤田和俊

1イベント概要

〇イベント説明
『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』
2022年/日本/107分
監督:三好大輔 川内有緒
出演:白鳥建二 佐藤麻衣子 森山純子 ほか

「全盲の自分でも、アートを見ることはできるのかもしれない」。話題の書籍の映画版であり、「全盲の美術鑑賞者」白鳥建二さんを追った新作ドキュメンタリー映画の字幕版・音声ガイド版を先行上映しました。その後、白鳥建二さん、監督の三好大輔さん、原案・共同監督の川内有緒さんを迎え、「『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』と一緒に考えるフクシ×アート」というテーマでトークショーも開催しました。

○音声ガイド版について
映画における音声ガイドとは、主に視覚障がい者の方が映画を楽しめるように映像に合わせた音声を流し、情景や登場人物の動きを伝えるものである。しかし、映画の情報を全て伝えることは難しいため、重要なところを抜粋し、端的な音声で伝えることで映画の情報を聴覚で補うことができるようになっている。音声ガイドを用いた映画は、晴眼者の方でも楽しむことができる。映画のような映像作品は、シーンの移り変わりが激しいことが多いため、視覚だけでは見逃してしまうような表現が音声として認識できる。そのため、より多くの情報を取り入れて映画を楽しむことが可能になっている。

〇当日のスケジュール
10:30~12:30 映画先行上映会 日本語字幕版 舞台挨拶、感想記入後物販コーナー、サイン会へ
13:15~15:15 映画先行上映会 音声ガイド版、舞台挨拶、感想記入後物販コーナー、サイン会へ
15:45~16:45 『目の見えない白鳥さん、アートを見に行く』と一緒に考えるフクシ×アート、感想記入後物販コーナー、サイン会へ

〇当日の参加者
参加者合計164人
日本語字幕版41人
音声ガイド版59人
トークショー38人

〇アンケート結果(全体を%で表す、小数点以下四捨五入)

  • 来場のきっかけ(64人にアンケートを取った結果):ウェブサイト7.8%、チラシ31%、新聞雑誌1%、知人34%、インスタ1%、フェイスブック15%、ツイッター3%など
  • 映画について:すごく良かった67%、良かった28%、普通1.6%良くなかった0%、悪かった0%、無回答3.2%
  • トークショーについて:すごく良かった40%、良かった7.9%、普通3.2%、良くなかった0%、悪かった0%、無回答49%
  • 同イベントが開催されたら:また来たい95%、もう来ない0%、無回答4.8%
  • イベントの総合的な満足度:大変満足40%、満足38%、普通4.8%、不満0%、大変不満0%、無回答17%

2舞台挨拶・トークショー

○舞台挨拶
舞台挨拶では監督兼プロデューサーを務めた三好大輔さん、今回の映画の元となった本『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』の著者川内有緒さん、本映画の主役であり、モデルである白鳥建二さんが登壇した。この映画では1日8時間以上、さらにネタがあるかもと三好さんが飲み会の時も撮影していたらしく、白鳥さんは「最後のほうはもう飽きてきて、飽きたという表情を出してたけんだけど、のちの飲み会で『あのシーンは手元だけしか映ってないよ』と言われてめちゃくちゃ悔しかった」とメイキングの様子を楽しそうに語ってくれた。

○トークショー
2部の先行上映終了後、FM鳥取の山下さん司会のもと、トークショーが行われた。トークショーでは、三好大輔監督、川内有緒さん、白鳥建二さんに加え、コーディネーターを務めた石田陽介さんが登壇した。初めはトークの中で緊張感を感じる場面もあったが、話していくに連れて4人の関係性について楽しそうに語っている場面も見ることができた。この映画の中で、三好さんは「どうしたら映画の流れをいかに崩さず伝えることができるのか、というので言葉選びにとても苦労した」と制作時の苦悩も語ってくれた。白鳥さんは、「アートはどう解釈してもいいし、受け取り方はその人の自由。一緒に鑑賞して、同じ場所を共有することが大事なんだと思う」とアート鑑賞についての考え方も語ってくれた。
最後の一言を求められると、三好さんは「この映画がチャート1位になる夢を見たので、色んな所で共有していただけたら嬉しいです」と笑いを誘った。
川内さんは「元々夢だったのが、こうして50にして叶ってとても嬉しかった」と心内を語ってくれた。白鳥さんは「将来について考えたことがなかったけど、最近この映画で海外に行くことが夢になった。写真家としても海外に行きたい!」と海外進出の意向も語ってくれた。
規定時間が過ぎても話が途切れず、終始登壇者、参加者ともに楽しそうな雰囲気が伝わったトークショーであった。

3当日の様子・来場者感想

○会場の様子
白鳥さんは「対話型鑑賞」を通し、アートを鑑賞することを生きがいにしている。鑑賞を通じて構築した人間関係を大切にして、アートを鑑賞するだけでなく、写真を撮ったり、自身がアートになったりと楽しそうな日常を過ごす白鳥さんの姿が非常に印象に残る。
映画の中では、白鳥さんがアート鑑賞をする際にどのようなことを想像しているかを、イラストのタイムラプス動画で表した描写や白鳥さんが普段どのような景色を感じながら歩いている様子を、黒い背景に白線で描いたワンシーンは、白鳥さんが普段何を見ているのかを覗く体験ができ、非常に興味深い体験ができる。上映後の会場の席からは、満足そうな表情や面白かったなどの声が聞こえた。会場の席も空きの無いほど埋まっており、たくさんの来場者が楽しめた先行上映会であったと感じた。

○物販スペース
物販スペースでは、本映画の元となった図書『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』の著者である川内有緒さんのサイン会も同時に行われていた。映画の上映後はイベントスタッフの方も忙しく動いている様子だった。また、聴覚障がい者向けのサービスで手話を提供していたり、限定Tシャツの販売も行っていた。

〇来場者の感想

  • 絵を正確に伝えるのではなく、会話として楽しむことが大切だと思う。
  • 事前に本を読んでいたが、映像で見るとさらに楽しめた。
  • アートをさらに生かしていきたい。医療者が街に出ていろいろな人とフラットに話していければいいと思った。
  • 白鳥さんの人柄や生き方に魅力が詰まっており非常に面白かった。
  • 字幕版と音声ガイド版では見え方が違った。
  • 晴眼者との壁を作らない白鳥さんの魅力が詰まっていた。
  • 音声ガイド版は新鮮だった

4レポーター編集後記

  • 「目が見えないからできないことはしない」のではなく、何事にも挑戦して「できることにする」勇気をこの映画からは貰うことができた。また、晴眼者と視覚障害者の壁を作らずに活動を共にすることにより、見えない世界を体験することで新しい発見があるのかもしれないと感じた。
  • 今回の映画をいろいろな感じ⽅で鑑賞して、視覚障がい者への理解を深めることができた。私も、先⽇のギャラリーコンパのようなイベントに興味が出たので、これからは積極的に反応出来るアンテナを張り、視覚障がい者の⽅とお話をしてみたいと感じた。
  • 映画を見て思ったことは、私たちが過ごしている日常と白鳥さんの過ごしている日常なんら変わらないことに気づいた。お酒が好きだから自ら居酒屋に行くであったり、写真にとどめておくことであったり、自分の好きなことをして興味を持つ白鳥さんがとてもかっこよかった。字幕では発言だけではなく、一つ一つにも字幕が書いてあり状況が伝わりやすく、内容をより理解しながら見ることができた。字幕映画は海外映画の字幕版で見ることがあるので多少の違いはあれどもそんなに変化はなかったが、音声補助の映画を見て、驚いたことは白鳥さんが持っている新聞の内容まで音声で説明していたことだ。字幕映画を見ていて気にしていなかったのもあって、そんな細かいところまで説明してくれるのだと感銘を受けた。トークショーや舞台挨拶で白鳥さんや監督の三好さん、作家の川内さんが楽しそうに話していて、観客の皆様も私たちも終始和やかなムードで終えることができてとても楽しかった。
    今後もこのような機会があれば積極的に参加したいと思ったし、対話型鑑賞をより多くの人に知ってもらいたいと思った。
  • 字幕版の映画も音声版の映画も違った魅力があって、素晴らしいと思った。両社ともお映画の流れが悪くなるわけではなく、とても違和感なく楽しく見ることが出来た。記録係として、様々な人の意見や考えを聞くことが出来て、非常に興味深かった。トークショーでも映画を作ろうと思ったきっかけや普段は聞くことが出来ないことをたくさん聞けて良かった。白鳥さんもユーモアたっぷりの方で、とても楽しかった。参加者の方も楽しんでくれたようでよかった。参加者の方も私たちスタッフも、関係者の方もみんながこの日を通して成長出来たり、自分の考えを持ったりできたと思うのでとても充実して満足できる日だった。

5主催情報

運営:フクシ×アートWEEK実行委員会

主催:鳥取大学 地域価値創造研究教育機構
共催:鳥取県教育委員会美術館整備局
   鳥取県立美術館パートナーズ
特別協力:あいサポート・アートセンター

運営協力・記事:鳥取大学デザインプロジェクト

トークショーの様子

6 リンク

白鳥建二

全盲の美術鑑賞者・写真家

生れ付き強度の弱視で、中学くらいにはほとんど見えなくなり、20代半ばで全盲になる。美術館デートをきっかけに、鑑賞に興味を持ち、単独で美術館へ行く活動を始める。会話しながら鑑賞するという方法で、友人と美術館に行ったり、鑑賞会に関わるようになって20年以上になる。水戸芸術館現代美術センターで開催されている、視覚に障害がある人との鑑賞ツアー「session!」のナビゲーターを10 年にわたり務めている。

三好大輔

映画監督/プロデューサー

1972年岐阜生まれ。1995年日本大学芸術学部卒。音楽専門の制作会社入社。MVやライブ映像の制作に携わる。2000年PROMAX&BDA AWARDS受賞。広告会社を経て2005年独立。癌を患った友人の奥山貴宏を追った記録がNHKのETV特集「オレを覚えていてほしい」で評判となる。2008年より東京藝術大学デザイン科講師。市井の人々が記録した8mmフィルムによる「地域映画」づくりをはじめ、全国にその活動を広げる。東日本大震災後、安曇野に移住。2015年 株式会社アルプスピクチャーズ設立。2020年 松本の古民家に拠点を移す。全盲の美術鑑賞者白鳥建二のドキュメンタリー「白い鳥」共同監督。映画を中心に映像制作を行う一方、全国の大学等で映像の指導を行う。

川内有緒

ノンフィクション作家

映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、いつしか中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学の中南米地域研究学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。
『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。趣味は美術鑑賞とDIY小屋づくり。また東京でギャラリー「山小屋」(東京)を運営している。最新刊は『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)。ドキュメンタリー映画『白い鳥』共同監督。

石田陽介

鳥取大学 准教授/ギャラリーコンパ主催スタッフ

精神科病院勤務を経た後、まちに芸術養生が息づく社会の仕組みづくりの実践研究に取組む。現在鳥取で美術館セラピープロジェクトを推進中。日本芸術療法学会認定芸術療法士〔アートセラピスト〕。博士(感性学)。

をわぬ組

鳥取大学デザインプロジェクト2022年度受講生

記事執筆担当をわぬ組メンバー:木村騎士、井上柊、花岡芽依