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トリノ
トレース

vol 003

2023.12.26

視覚を超えたアート共同鑑賞ワークショップ「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2023」
2023年10月28日開催レポート

視覚を超えたアート共同鑑賞ワークショップ「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2023」<br>2023年10月28日開催レポート

2023年10月28日(土曜日)、「フクシ×アートWEEKs2023」とも連携したプログラムとして、「汽水域アートシェアリング2023 『ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館2023』」を開催しました。

執筆|
鳥取大学アートプロジェクト2023年度わろん組

編集|
石田陽介

編集補助・撮影|
蔵多優美

1開催レポート

2023年10月28日(土曜)の15時から17時までの二時間にわたって、ウェルビーイングを共創するプレ美術館セラピープログラム「汽水域アートシェアリング2023」の第二部として、視覚を超えたアート共同鑑賞ワークショップ「ギャラリーコンパ@鳥取県立博物館 2023」を開催した。
「ギャラリーコンパ」とは、目が見える・見えないという互いの世界を活かしあって、
一緒に鑑賞体験をシェアするワークショップであり、石田陽介・濱田庄司・松尾さちによって2005年に始動し、これまで18年間にわたって各地で開催されてきた芸術運動である。
本ワークショップには視覚障がい者3名(全盲2名、弱視1名)を含む参加者23名が参加し、対話を通してアート作品を共に楽しんだ。
会場となった鳥取県立博物館は、1972年に開館し、以来50年以上の歴史を誇る総合博物館である。

今回の舞台は2025年に開館が迫る鳥取県立美術館のパイロットプロジェクトとして開催された美術展覧会[シリーズ・美術をめぐる場をつくるⅤ「赤ちゃんたちのためのアート鑑賞パラダイス」]である。「ギャラリーコンパ」の参加者は、A班・B班・C班の3グループに分かれ、各グループは15分を目安に、1時間で約3~4点の作品を鑑賞した。イベント運営は鳥取大学アートプロジェクト学生スタッフが行い、ワークショップの進行を担った。

会場視察の際に触れる展示物を鑑賞する「ギャラリーコンパ」のファシリテーターである視覚障がい者の濱田庄司さん(左)と晴眼者の松尾さちさん(右)

はじめに、デモンストレーションが実施された。
「ギャラリーコンパ」のファシリテーターである視覚障がい者の濱田庄司さんと晴眼者の松尾さちさん、石田陽介さんが実際に一枚の作品の前に立ち、作品の鑑賞手順を参加者の前で実演していった。
言葉によって色や印象、大きさや形を松尾さんが言葉で説明していくが、実際に濱田さんの体にふれながら作品の大きさや形を伝える場面も見られた。

主催のギャラリーコンパスタッフ

デモンストレーション後、それぞれの班の晴眼者の一人が、鑑賞作品を主体的に選んでいき、その作品の前に、同じ班の視覚障がいを持つ参加者と持たない参加者を誘導した。

A班では、作品に対し、まず『これが何か』を説明しようとしていた。「これはベルトかな?」「いや紙っぽくないですか?」など熱心に話し合い、視覚障がいを持つ参加者に説明しようとすると、晴眼者たちの間でも思いもよらない意見の相違が出てくるため、視覚障がい者を持つ参加者も、異なる角度からの作品描写を聴きながら、焦点を合わせてイメージしようとは思うものの、想像力が膨らみすぎていくことを楽しそうに味わっていた様子が伺えた。晴眼者の方も「うまく伝わっているか不安」と口にするものの、自分とは全く違った見解を聴け、楽しそうだった。また実際に視覚障がいを持つ参加者の手を誘導しながら、絵画の大きさを分かりやすく説明していた。

B班の方では、絵画の色合いに着目して鑑賞していた。抽象的な絵画であったため、説明するのが難しそうであった。「光」という明るい印象の絵画を鑑賞していたが、「全体的には明るい色だけど、緑や黒もあってそれが目立っている」「なにを表しているんだろう」など、晴眼者の参加者も本作品の見方に困っている様子が伺えた。そうした中で、別の青眼者が、本作品とは対照的にも映る隣の絵画に着目し、「左の絵は明るくてパワーがある感じ」「右の絵は暗いから寂しい感じがするね」と2つの絵を比較しながら言語化することで、視覚障がいを持つ参加者へと説明しやすくなっていた。視覚障がいを持つ参加者は、宗教家であったため「哲学的にいえば陰と陽ってことだね」と言って哲学的な解説を晴眼者側に行う場面もみられた。このように、絵画を説明していく中で晴眼者の方が学ぶことが多く見られていった。ワークショップ終盤、「こんなに長く絵を説明してくれてありがとう。こんなことあんまりないよ」と視覚障がいを持つ参加者の方が、同じ班のメンバーに感謝を伝えていった。

C班では、『アントロポス』という絵画を選択して鑑賞した。
「法則があるようでないような不思議な絵だね」「これはサヤエンドウ?」「定規?」「閉じたハサミじゃない?」と熱い議論が繰り広げられた。
何を表しているのかを知るためのヒントにしようと題名に着目した。誰もアンドロポスという言葉を知らなかったため、みんなでインターネットを使って調べていた。
「原人間って意味なんだね」「だから背景が茶色なのかな」「題名の意味を考えたら、今までの説明全然違うね」など一気に絵画の見方が変わったようだった。
また、その後におっぱいを題材にした作品を鑑賞していた。おっぱいがどんなもので表現されているのかを説明していた。「ボウルとヘタみたいなので作られている」「透明なボウルだよね」「透明なの!?」「ボウルを突き破っている」など話が弾んでいた。
「全部形が違うのは現実と一緒だね」という言葉にみんなで納得していた。
各班における鑑賞方法にも、それぞれ独自の個性が現れていた。「誰と見るのか」によって、作品の印象はまるで変わっていったように思われる。

各班、鑑賞体験を一時間ほどで終えると、会議室に戻って、先ほどの鑑賞時間を振り返り、そこで気付き感じたことをシェアする、意見交換のプログラムが行われた。
晴眼者である参加者の感想としては、「自分の言葉で本当に伝わっているのか不安だったけれど、わかってもらえると嬉しい」「自分では気づけない指摘や発見が聞けて楽しかった」「普段はここまでじっくり見て言葉にしようとすることは無いので、数点の鑑賞だけでもどっと疲れた」という意見が寄せられた。
視覚障がいを持つ参加者の感想として、「会話によってどんどんイメージが広がるのが面白かった」「抽象画はイメージが難しかったが、写真や風景では想像のできないものに触れるいい機会になった」という意見が寄せられていた。

2レポーター編集後記

私は今回のこのギャラリーコンパを通して、視覚障がい者と晴眼者が一緒にアートを楽しむということは視覚障がい者にとってはもちろん、晴眼者にとってもとても楽しいことであることに気付かされました。視覚障がい者の方に説明しようとすると、晴眼者の参加者側の想像力も、普通に鑑賞するよりもより膨らんでいくから楽しいのだと思います。また、うまく伝わったんだろうなと感じた時に、相手もとても嬉しそうな顔をしていて、その顔を見ていたら私自身、すごくほっこりしました。また、視覚障がいを持つ参加者の発言を通し、はっと気付かされることが本当に多く、たくさん勉強させていただきました。障がいを持つ参加者の方も、一枚の絵画を他の人と共に味わうことができとても楽しそうで、「説明してくれてありがとう」と感謝の気持ちをしきりに口にされていらっしゃいました。「すごく温かいワークショップになったなあ」と感じました。(平松)

美術作品の目の前で鑑賞しながら意見を交換するということが、ここまで大きな効果を持つとは思わなかった。それぞれが自分の見えたものを共有することで、それまで見えていなかったものが現れ、視界が広がっていく様子がとても面白かった。私ははじめ、このギャラリーコンパは「視覚障がい者のため」のものだと勘違いをしていた。実際には、視覚障がい者も健常者も関係なく全員が「見えなかったものが見えるようになる」という体験を共有していた。今回鑑賞した作品は、取材者として一歩引いた視点から鑑賞していた私でもはっきりと覚えているくらいだ。きっと、ギャラリーコンパに参加した方々は今回鑑賞した作品がより強く印象に残っているのでは無いだろうか。(関口)

参加者集合写真

3主催情報

ファシリテーター:石田陽介・濱田庄司・松尾さち
運営:鳥取大学アートプロジェクト・野口明生

主催:鳥取大学 地域価値創造研究教育機構
共催:鳥取県教育委員会美術館整備局
協力:あいサポート・アートセンター

フクシ×アートWEEKs2023連携企画

石田陽介、松尾さち、濱田庄司

ギャラリーコンパスタッフ

石田陽介・松尾さち・濱田庄司がファシリテーションする「ギャラリーコンパ」は、視覚障がい者と晴眼者が、目の見える見えないといった互いの個性を活かし合い、共に語らいながらアート鑑賞を行うワークショップである。市民活動として2005年に始動し、主に北部九州の美術館やギャラリーで年3、4回のペースで開催している。

わろん組

鳥取大学アートプロジェクト2023年度受講生

記事執筆担当わろん組メンバー:関口論、平松和奏